「展示会 1 回の出展、何 kg の CO2 を出しているかご存知でしょうか?」
私たちマーケティングアカデミアが、サステナビリティ文脈でクライアントとお話しするときに、最初にお伺いしている問いです。
正直、すぐに数字が出てくる方はほとんどいらっしゃいません。出展ブース費用や旅費は把握していても、CO2 排出量は計測されていない領域です。広告でも、訪問営業でも、テレアポでも事情は同じです。
本記事では、各マーケ施策の CO2 単価 をできるだけ一次ソースに当たりながら整理し、新規獲得型マーケと既存リード復活型のリードナーチャリングを 累積 CO2 で比較した弊社試算をお見せします。
最初にお断りしておきます。本記事の数字には「弊社按分試算(⚪)」が含まれます。 他のマーケ手法 1 タッチあたりの CO2 を「1 リード換算」「1 商談換算」に直す部分は、業界の公開データだけでは届かない領域があり、弊社で前提条件を置いて試算しています。前提条件は本文中ですべて開示しますので、貴社で「ここは違う」「ここは妥当」とご判断いただける形にしました。
検証ステータス凡例: 🟢 一次確認済 / 🟡 二次経由 / 🔴 一次未検証 / ⚪ 弊社見解・試算
本題に入る前に、本記事の表現ルールを共有します。
「環境にやさしい」「エコ」「クリーン」「カーボンニュートラル」「climate neutral」 — これらの表現は、本記事では使いません。
理由は 2 つあります。
代わりに、「相対比較」+「前提条件全公開」 で語ります。「他のマーケ手法と比べて、リードナーチャリングは概ね 1/2〜1/10 の CO2 排出に収まる試算です(前提条件公開)」 — このような表現を本記事の基本トーンとしています。
メールを送るには、サーバが必要です。MA ツールが動くデータセンターの電力もゼロではありません。私たちが扱う「ナーチャ 1 通」にも、わずかながら CO2 排出はあります。
これは隠しません。弊社のサーバ電力もゼロではないが、それを織り込んでも他手法に対する優位性は維持される と考えており、その理由が本記事の試算結果です。
この表で押さえていただきたいのは以下の点です。
メール 1 通あたりの CO2 は、Mike Berners-Lee 氏の名著「How Bad Are Bananas? The Carbon Footprint of Everything」(初版 2010 / 改訂版 2020・🟢 書籍情報確認済)で、以下のように整理されています。
リードナーチャリングで 1 通配信するメールは、HTML 形式で個別化されており、生成にも一定の作業時間が伴うため、本記事では 中間値 4 g 程度 を想定値として使います。原典は 4〜17 g の幅を持つので、単一値で見せると過剰な精度感を装うことになります。本シリーズでは原則 幅で表記 します。
国内(日本郵便)の DM 1 通あたり LCA は、私たちが調べた範囲では公表されていませんでした。代替として、英国 Royal Mail Group が公開している「CO2 emissions per item delivered 2021-22 = 平均 25 g/letter」(🟢 一次確認済)を参考値として使っています。
過去のマーケ業界記事では「DM 50g」と表記されているケースがありましたが、Royal Mail の公表値ベースでは 25 g/通 が現在の妥当値です。本記事を含む弊社の訴求文では 25 g に統一しています。
展示会出展 1 回の CO2 排出量は、UFI(国際見本市連盟)レベルでも 1 リード換算は公表されていません。弊社で「1 出展あたり約 4 t-CO2、獲得リード 500 件の場合、1 リード換算 約 6 kg-CO2」と按分しています。
訪問の CO2 排出量も、環境省の自動車排出原単位(小型乗用車 約 140 g/km と仮定)× 往復 50 km で 7 kg-CO2 と試算しています。原典 PDF からの g/km 値抽出は技術的に未確定のため、弊社試算(⚪) として明示します。
ここからは、上記の単価表をベースに、新規獲得 → 商談獲得まで と 既存リード復活 → 商談獲得まで の累積 CO2 を、シナリオ別に試算します。
⚪ 本試算はすべて弊社試算です。 単価そのものは出典のあるものをベースにしていますが、「商談化までに何タッチ重ねるか」「商談化率は何%か」といった部分は弊社の打率仮定です。
展示会接触 6 kg/リード × 5 リード(商談化率 20%)
+ メール 7 通 × 4 g
+ 商談訪問 7 kg
+ 提案訪問 7 kg
≒ 約 50 kg-CO2 / 1 商談
テレアポ 100 件 × 1 g(≒ 0.1 kg)
+ 訪問 5 回 × 7 kg = 35 kg(商談化率 20% で 1 商談)
+ 提案訪問 7 kg
+ メール 7 通 × 4 g
≒ 約 50 kg-CO2 / 1 商談
DM 1,000 通 × 25 g = 25 kg
+ 訪問 5 回 × 7 kg = 35 kg(DM 反応率 1% から 10 件、商談化 2 件)
- ただし試算では「2 件得られた商談のうち 1 件分」として案分
≒ 約 38 kg-CO2 / 1 商談
※ 旧試算では「DM 75 kg」と表記していましたが、Royal Mail 公表値ベースで再試算した結果、約 38 kg に下方修正されました。誠実さ優先で更新しています。
ナーチャメール 7 通 × 4 g(≒ 0.03 kg)
+ 商談訪問 7 kg
+ 提案訪問 7 kg
+ オンライン商談 100 g
≒ 約 21 kg-CO2 / 1 商談
ナーチャメール 7 通 × 4 g(≒ 0.03 kg)
+ オンライン商談 1 時間 × 100 g
+ オンライン提案 1 時間 × 100 g
+ Slack/Email でのフォロー
≒ 約 1.3 kg-CO2 / 1 商談
各シナリオの 1 商談あたり CO2 排出量(対面ベース / 全オンラインベース):
これらをまとめた弊社の表現は、以下のとおりです。
リードナーチャリングは、他のマーケ手法と比べて、CO2 排出量が概ね 1/2 〜 1/10 の水準に収まる試算です(弊社試算・前提条件公開)。
「1/30」と過大に表現していた時期もありましたが、Royal Mail 値の修正・A-2 のオンライン化健闘などを踏まえて、1/2 〜 1/10 の幅 が現時点で誠実な表現と判断しています。
本試算には、いくつかの限界があります。隠さずお伝えします。
訪問 7 kg は環境省 g/km 仮定値、展示会 6 kg は弊社按分です。これらは原典の精度を保証できる数値ではありません。
シナリオ A-1 で「展示会から商談化率 20%」と仮定していますが、これは BtoB SaaS / 比較的成熟した業種を念頭にした水準です。製造業・建設業など長期検討プロセスの業種では、もっと低い商談化率になります。逆に高い場合もあるでしょう。
ナーチャ運用に必要な MA ツール、CRM、メール配信プラットフォームのサーバ電力は、上記試算には部分的にしか反映されていません。それを完全に積み増しても、対面ベースで A-1 の「50 kg」を超えることは構造的に難しいですが、「リードナーチャリングは CO2 ゼロ」とは決して言えない ことを強調しておきます。
本試算は B2B のマーケ施策を比較していますが、もうひとつの巨大な領域として 広告サプライチェーン があります。Scope3(米国発・プログラマティック広告 CO2 計測 SaaS)によれば、「単一デジタル広告キャンペーン = 約 70 t-CO2」というオーダー(🔴 一次出典未追跡)の数値も流通しています。広告中心のマーケ予算を組んでいる企業ほど、リードナーチャリングへの再配分の効果は大きい、と弊社では考えています。
CO2 試算は、本シリーズで扱う 4 視点のうちの 1 つです。リードナーチャリングの価値は、業績相関(前回記事 ①)、関係性、専業ポジション(最終回記事 ④)と合わせて評価いただくものだと考えています。
ただし、ここで CO2 をあえて取り上げているのは、
を踏まえると、今後 3〜5 年スパンで「マーケ取引先選定」に CO2 観点が入ってくる蓋然性が高い と弊社が見ているためです。その文脈で、ハウスリード活用が CO2 観点でも筋がよい、ということを Fact ベースで提示しておきたい、というのが本記事の動機です。
数字の確からしさを示しながら、CO2 の文脈で見ると 既存リードを温め直す というマーケ手法に独自の価値があることを示せた、と考えています。
次回 ③ では、この CO2 文脈が 欧州規制と日本 B2B の調達基準 にどう繋がっているか、Fact ベースで整理します。
マーケティングアカデミアは、リードナーチャリング運用を専業とする支援会社です。専任の運用担当者 が、貴社のハウスリードを温め直し、商談化(トスアップ)するサービスを提供しています。
[royalmail]: Royal Mail Group plc, "CO₂ emissions per item delivered 2021-2022", 平均約 25g/letter (2021-22 年度)。https://www.royalmail.com/sustainability/environment/net-zero および https://www.statista.com/statistics/1336132/carbon-dioxide-emissions-per-item-delivered-of-royal-mail-group-plc/。検証ステータス: 🟢 一次確認済(Statista 経由公開数値)。注: 日本郵便の DM 1 通あたり LCA は公表されていないため、海外参考値を代用。
[bernerslee]: Mike Berners-Lee, "How Bad Are Bananas? The Carbon Footprint of Everything", Profile Books Ltd. 初版 2010 年、改訂版 2020 年。メール 1 通あたり CO2 = 通常 0.03g / 短文(PC 間)0.3g / 長文(10 分作成・3 分読了)17g / 100 人一斉送信 26g。https://profilebooks.com/work/how-bad-are-bananas/。検証ステータス: 🟢 書籍情報確認済(Mailjet ブログ経由で具体値確認)。
[mailjet]: Mailjet, "Email's Carbon Footprint: What Is It & How To Reduce It", 2024 年 9 月 3 日記事。https://www.mailjet.com/blog/email-best-practices/email-carbon-footprint/. メール 1 通あたり CO2 数値は Berners-Lee 書籍を参照。検証ステータス: 🟢 一次確認済。
[scope3]: Scope3. https://scope3.com/. プログラマティック広告 CO2 計測 SaaS。「単一デジタル広告キャンペーン = 約 70 トン CO2」「インターネット起因 GHG = 世界全体の約 4%」は二次引用ソース経由。検証ステータス: 🔴 数値の一次出典未追跡。
[statista]: Statista, "Sustainability in advertising and marketing in Europe - statistics & facts", 2025 年 12 月更新。https://www.statista.com/topics/12484/sustainability-in-advertising-and-marketing-in-europe/。検証ステータス: 🟡 詳細メソドロジは Statista 有料登録要、未確認。
[ecgt]: Directive (EU) 2024/825 of the European Parliament and of the Council on Empowering Consumers for the Green Transition. 国内法制化期限 2026 年 3 月 27 日、施行日 2026 年 9 月 27 日。Carbon Trust 公式解説 https://www.carbontrust.com/news-and-insights/insights/ecgt-directive-explained-what-organisations-who-sell-in-europe-should-know-and-do。検証ステータス: 🟢 公式解説で確認。