【なぜリードナーチャリングか?③】2026 年 9 月 EU ECGT 指令施行、WFA Planet Pledge は [marketing supply chain] の脱炭素を要請 — 日本 B2B 96.2% が調達基準にサステナ要請
はじめに
「貴社のお取引先から、調達基準書の中に "サステナビリティ項目" が含まれていた、という経験はありませんか?」
近年、私たちマーケティングアカデミアがクライアントとお話しする中で、この種の質問に「あります」とお答えになる方が、明らかに増えています。
業界別の温度感には差がありますが、製造業・建設業・自動車・電機・化学などの業界では、Tier 1(一次サプライヤー)が顧客から CO2 排出量データの提出を求められ、それが Tier 2、Tier 3 にも降りていく — というサプライチェーン全体での脱炭素要請が、すでに現実のものになっています。
この流れは、これまで「環境とは関係ない」と思われていた マーケティング領域 にも波及しつつあります。本記事では、欧州(規制 + 業界プレッジ)、日本 B2B(製造・建設業の調達基準)、それぞれの最新動向を、できる限り一次ソースで整理します。
検証ステータス凡例: 🟢 一次確認済 / 🟡 二次経由 / 🔴 一次未検証 / ⚪ 弊社見解・試算
1. EU ECGT 指令(Directive (EU) 2024/825)— 2026 年 9 月施行
概要 🟢
正式名称は "Directive (EU) 2024/825 of the European Parliament and of the Council on Empowering Consumers for the Green Transition"(消費者をグリーン移行に向けて力づける指令)。通称 ECGT 指令です。
- 採択: 2024 年
- 国内法制化期限: 2026 年 3 月 27 日
- 施行日: 2026 年 9 月 27 日
- 適用対象: EU で消費者向けに製品・サービスを販売する企業(本社所在地問わず)
- 主な禁止事項: "eco-friendly", "green", "climate neutral", "environmentally friendly" 等の汎用環境訴求は、実証なしには使用禁止
マーケ・広告業界に与える影響
ECGT 指令は、消費者保護の文脈で議論されてきましたが、影響範囲は広告・マーケティング全般に及びます。
- 商品パッケージや広告クリエイティブで「エコ」「環境にやさしい」と訴求するには、第三者検証された Fact を提示できなければならない
- 「カーボンニュートラル」と訴求するには、カーボンクレジットによる相殺だけでなく、実排出削減のロードマップ が必要
- B2B 商材であっても、最終的に EU 消費者向け商品の構成要素となる場合は、サプライチェーン経由で影響を受ける
EU 域外の企業であっても、EU 内で販売する以上は適用対象です。日本企業も、EU 向け輸出を行っている部門・関連会社は対応が必要になります。
日本企業への波及スピード
EU の規制は、過去にも GDPR(2018 年施行)、CSRD(2024-2026 段階施行)といった形で 日本企業の運用にじわじわ影響 してきました。ECGT も同じ経路をたどる可能性が高い、と弊社は見ています(⚪)。
特に、
- EU 向け輸出を行う日本のグローバル製造業
- EU 拠点を持つ商社・物流
- EU 親会社の日本法人
これらに該当する企業では、社内の購買・マーケ部門で「グリーン訴求の根拠管理」「Scope3 排出量の取引先データ収集」が、すでに実務として始まっている状況です。
2. WFA Planet Pledge — マーケティングサプライチェーン全体の脱炭素 🟢
概要
世界広告主連盟(World Federation of Advertisers, WFA)が、2021 年 4 月 21 日に発表した Planet Pledge は、CMO(最高マーケティング責任者)向けの 4 つのコミットメントから構成されます。
出典: WFA 公式発表ページ(🟢 一次確認済)
"WFA launches Planet Pledge for Marketers", 2021-04-21
4 コミットメントの原文(要点)
- "Commit to being a champion for the global Race to Zero campaign both internally within their organisations and to encouraging their marketing supply chain to do the same"
- 自社内および marketing supply chain に対し Race to Zero への参加を推進する
- "Scale the capability of marketing organisations to lead for climate action by providing tools and guidance for their marketers and agencies"
- 自社のマーケ組織・代理店に気候アクションのツール・ガイダンスを提供する
- "Harness the power of their marketing communications to drive more sustainable consumer behaviours"
- 自社のマーケコミュニケーションを通じてサステナブルな消費者行動を促す
- "Reinforce a trustworthy marketing environment, where sustainability claims can be easily substantiated so that consumers can trust the marketing messages"
- サステナ訴求の根拠を提示できる、信頼に足るマーケ環境を強化する
「marketing supply chain」を直訳すると
第 1 コミットメントの "marketing supply chain" は、私たちが本シリーズ序章でお話しした「マーケ取引先」と、ほぼ同義です。
具体的には:
- 広告代理店、メディアバイイング会社
- DSP / SSP(広告配信プラットフォーム)
- クリエイティブ制作会社
- イベント・展示会運営会社
- DM 印刷・発送業者
- MA ツールベンダー
- そして、リードナーチャリング運用支援会社(私たちもここに該当)
これらの「マーケ取引先」全体に、CMO は脱炭素を働きかけることをコミットしている、というのが Planet Pledge の構造です。
ローンチ時の参加企業(🟢 一次確認済)
ローンチ時点で参加を表明した企業の一部:
- Bayer、Danone、Diageo、Dole Packaged Foods
- Mastercard、Ørsted、Reckitt
- Telefónica、Tesco、Unilever
参加した国別広告主協会(22 か国・🟢 一次確認済):
- ISBA(英国)、Union des marques(フランス)、Sveriges Annonsörer(スウェーデン)、Marketing Finland、AEA(スペイン)、ANFO(ノルウェー)、その他多数
日本(広告主協会 = JAA、日本アドバタイザーズ協会)の参加状況については、本記事執筆時点で確認できていません。今後の動向を観察する価値がある領域です。
3. Ad Net Zero — 広告産業の 2030 年 net zero 🟢🟡
概要
Ad Net Zero は、UK 発・グローバル展開の業界イニシアティブです。広告産業全体で 2030 年までに net zero を目指すことを目標としています。
- グローバル展開: US, Europe, Australia, New Zealand
- 280+ supporters worldwide
- 公式ページ: https://adnetzero.com/
5-Point Action Plan(🟢 公式ページで確認)
- Reduce emissions across business operations
- Reduce emissions from advertising production
- Reduce emissions from media planning and buying
- Reduce emissions through awards and events
- Encourage more sustainable behaviours
特筆すべきは Point 3 の「Reduce emissions from media planning and buying」です。これは、広告キャンペーンの 企画・配信プロセス自体 の CO2 を削減せよ、という要請であり、プログラマティック広告の CO2 計測 SaaS(前回記事 ② で触れた Scope3 など)の市場ニーズに直結しています。
「2030 年 net zero 達成目標」「世界広告費 49% カバー」といった補足数値は、過去の WebSearch summary 経由で確認していますが、本記事執筆時点で公式ページから直接の出典確認は取れず、🟡 扱いとしています。
4. 日本 B2B の現在地 — 製造・建設業 96.2% 🟢
株式会社メンバーズ「BtoB グリーンマーティング実態調査 2026」
国内の動向で、本記事執筆時点で最も具体的な数値を示している調査が、株式会社メンバーズの 「BtoB グリーンマーティング実態調査 2026」(2026 年 4 月 22 日発表・🟢 一次確認済)です。
注: 発表ページに「マーティング」という誤字が残っていますが、正式調査名のため本記事でもそのまま表記しています。
調査の前提条件(重要)
数値を引用する前に、本調査の 前提条件 を明示します。これは、数字を読み解く側に必要な情報です。
- 発表日: 2026 年 4 月 22 日
- 調査主体: 株式会社メンバーズ 脱炭素 DX カンパニー
- 調査対象: BtoB 製造業・建設業 の環境配慮型製品の販促・マーケ開発・営業企画担当者
- n 数: 53 名(小規模調査)
- 調査時期: 2026 年 2 月 28 日〜3 月 5 日
- 調査方法: Web アンケート
主要数値の正確な定義
- 96.2% = 「顧客の調達基準にサステナビリティ項目が含まれているか」に対し「必須要件として存在 22.6% + 加点要素として存在 73.6%」の合算
- 60.4% = 環境配慮型製品の売上が前年度比で増加と回答
- 79.2% = 営業〜受注フェーズで「価格高で断られる」を最大課題と回答
96.2% という数字の読み方
この数字を「日本の B2B 全体で 96.2%」と読むと 不正確 です。本調査は 製造業・建設業に限定、しかも n=53 の小規模調査 です。
それでもなお、注目に値する数字だと弊社が考える理由は 2 つあります。
- 「必須要件 22.6%」の存在感: 4 社に 1 社近くの取引先で、調達基準のサステナ項目が 必須 になっているという事実は、もはや「考慮に値する加点」のレベルを超えています
- 環境配慮型製品売上の +60.4% 増加: 製造業・建設業の中で、サステナ系商材の市場拡大を実感している企業が過半数を超えている
これらは「調達側」の動きです。マーケティング・営業の取引先選定基準にサステナ観点が降りてくる までには、もう少し時間がかかると思われます。ただし、その方向への流れは、欧州 + Tier 1 サプライヤー経由で日本に降りてきている、と弊社は見ています(⚪)。
5. その他の関連動向
簡単に、押さえておくべき動向を列挙します。
Scope3(米国発) 🔴🟡
- プログラマティック広告 CO2 を測定・標準化する SaaS
- 「単一デジタル広告キャンペーン = 約 70 t-CO2」「インターネット起因 GHG = 世界全体の約 4%」 — 🔴 一次未検証
- 公式: https://scope3.com/
Mailpro / Mailjet(CH / FR) 🟢
- メール送信プラットフォームの再生可能エネルギー運用、1 通あたり CO2 計測機能を商品化
- 出典: Mailjet "Email's Carbon Footprint" 記事(🟢 一次確認済)
Statista 統計 🟡
- 「欧州企業の 1/5 しかデジタル広告 CO2 を計測していない」
- 元データは 2022 年 12 月の調査、詳細メソドロジは Statista 有料登録要、未確認(🟡)
Clean Creatives(米国) 🟡
- 広告・PR エージェンシーに「化石燃料企業との取引拒否」を求める運動
- 公式: https://cleancreatives.org/
B2B サステナ専門エージェンシー 🟡
- Snowball Creations / Dandelion Branding / Echo-Factory / HexaGroup(B2B 特化)/ The Sustainable Agency / Climate Agency / Orange Bird など
- 業界ブログ経由(The Sustainable Agency, "Best Sustainability Marketing Agencies | 2026 Guide")
日本のサステナ専門コンサル・メディア 🟡
- 横河電機(B2B 大手で SDGs 戦略を全社統合 — 日経 BP コンサルティング経由)
- プログレス アンド パートナーズ
- カルタ・マーケティング・ファーム
- イントリックス
- 安藤光展氏(CSR コンサル)
6. リードナーチャリングと、この潮流の関係 ⚪
ここまで、欧州規制・WFA Planet Pledge・Ad Net Zero・日本 B2B の動向を整理してきました。
これらの流れがマーケ領域の取引先選定にも波及していく と弊社は見ていますが、この見立てはあくまで弊社見解(⚪)です。WFA Planet Pledge の第 1 コミットメントは「marketing supply chain」を明示的に対象に含めているものの、それが日本市場で B2B マーケ取引先選定に降りてくる時期・形は、確定的に予測できる段階ではありません。
ただし、
- 欧州先進企業の動きが日本に 3〜5 年遅れで影響を与えてきた歴史(GDPR、CSRD など)
- 日本 B2B 製造・建設業の調達基準サステナ化が、すでに 96.2% という数字(n=53 ながら)に表れている
- マーケ取引先全体の中で、リードナーチャリングは構造的に CO2 排出が小さい 部類に入る(前回 ② 記事の試算)
これらを並べて見ると、リードナーチャリング運用に投資する判断は、業績観点だけでなく、3〜5 年スパンでの "マーケ取引先選定" の文脈でも筋がよい と、私たちは考えています。
まとめ
- 2026 年 9 月 27 日、EU ECGT 指令が施行(🟢)。"eco-friendly" "green" "climate neutral" 等の汎用環境訴求は、実証なしには使用禁止
- WFA Planet Pledge(2021 年発足・🟢)の第 1 コミットメント は、CMO に対し "marketing supply chain" の脱炭素推進を要請
- Ad Net Zero(🟢🟡) は広告産業全体の 2030 net zero を目標、5-Point Action Plan で広告制作・メディアプランニングの CO2 削減を要請
- 日本 B2B 製造・建設業(n=53 の小規模調査)で 96.2% が「顧客の調達基準にサステナ項目を含む」と回答(メンバーズ 2026 年 4 月発表・🟢)
- これらの流れがマーケ取引先選定に波及する という見立ては弊社見解(⚪)だが、流れを観察する価値は高い
「サステナビリティ」は、マーケティング部門にとって従来は「ブランディング」「広報」のテーマでしたが、規制 + 取引先選定の両面から、マーケ施策の選択そのもの に影響する文脈が立ち上がりつつあります。リードナーチャリング運用支援会社として、私たちはこの流れを誠実に Fact で整理してお伝えする責任があると考え、本記事を書きました。
次回 ④ 最終回では、マーケティングアカデミアが取っている 「リードナーチャリング運用専業」 というポジションと、専任の運用担当者 + Kizuna エンジンの仕組みについて、隠さずお話しします。
シリーズ「なぜリードナーチャリングか?」 他の記事
- 【序章】業績相関 × 脱炭素 × 関係性 × 専業ポジション — 4 つの視点
- 【①】業績相関 — Forrester +50%・Annuitas +47% の本当の読み方
- 【②】CO2 ベンチマーク試算 — DM 25g、メール 0.3〜17g から見える「他のマーケ手法と比べて 1/2〜1/10」の意味
- 【③】2026 年 9 月 EU ECGT 指令施行・WFA Planet Pledge と日本 B2B の調達基準サステナ化(本記事)
- 【④最終回】「リードナーチャリング運用専業」という、国内で数少ないポジション
関連サービス
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脚注・出典
[ecgt]: Directive (EU) 2024/825 of the European Parliament and of the Council on Empowering Consumers for the Green Transition. 国内法制化期限 2026 年 3 月 27 日、施行日 2026 年 9 月 27 日。Carbon Trust 公式解説 https://www.carbontrust.com/news-and-insights/insights/ecgt-directive-explained-what-organisations-who-sell-in-europe-should-know-and-do。European Commission Green Claims ページ https://environment.ec.europa.eu/topics/circular-economy-topics/green-claims_en。検証ステータス: 🟢 公式解説で確認。
[wfa]: World Federation of Advertisers, "WFA launches Planet Pledge for Marketers", 2021 年 4 月 21 日発表。https://wfanet.org/knowledge/item/2021/04/21/WFA-launches-Planet-Pledge-for-Marketers。22 か国の国別広告主協会参加 https://wfanet.org/knowledge/item/2021/09/09/Four-major-multinationals-and-22-national-advertiser-associations-rally-behind-WFAs-Planet-Pledge。検証ステータス: 🟢 一次確認済。
[adnetzero]: Ad Net Zero. https://adnetzero.com/. 5-Point Action Plan 原文確認、グローバル展開(US, Europe, Australia, New Zealand)確認、280+ supporters worldwide。「2030 年 net zero 達成目標」「世界広告費 49% カバー」は WebSearch summary 経由(一次未確認)。検証ステータス: 🟢 公式ページ部分確認、一部 🟡。
[members]: 株式会社メンバーズ 脱炭素 DX カンパニー「BtoB グリーンマーティング実態調査 2026」、2026 年 4 月 22 日発表、対象 BtoB 製造業・建設業の環境配慮型製品の販促・マーケ開発・営業企画担当者 53 名、調査時期 2026 年 2 月 28 日〜3 月 5 日、Web アンケート方式。https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000145282.html および https://www.members.co.jp/download/172-greenmarketing-survey。検証ステータス: 🟢 一次確認済。
[scope3]: Scope3. https://scope3.com/. プログラマティック広告 CO2 計測 SaaS。検証ステータス: 🔴 数値の一次出典未追跡。
[statista]: Statista, "Sustainability in advertising and marketing in Europe - statistics & facts". https://www.statista.com/topics/12484/sustainability-in-advertising-and-marketing-in-europe/。検証ステータス: 🟡 詳細メソドロジ未確認。
[cleancreatives]: Clean Creatives. https://cleancreatives.org/. 広告・PR エージェンシーに化石燃料企業との取引拒否を求める運動。検証ステータス: 🟡。
[thesustainable]: The Sustainable Agency, "Best Sustainability Marketing Agencies | 2026 Guide". https://thesustainableagency.com/blog/best-sustainability-marketing-agencies/. 検証ステータス: 🟡 業界ブログ。
マーケティングアカデミア富田
マーケティングアカデミア富田
株式会社マーケティングアカデミア 代表取締役 20代はリクルートで人材系の法人営業。飛び込みやテレアポをしたくない、でも成果は出さないと行けない、というジレンマの中、気づけばメールマーケティング・カスタマーサクセスのような動きを自然身に着けていた。狙い通り、「自分は案件や引き合いが多くてテレアポの時間が作れないし、優先すべきは今ある案件の受注」という建前を作りつつ、表彰を多数獲得。 30歳の誕生月にリクルートを卒業し、ベンチャーで教育系求人サイトの事業責任者に。はじめて経験するデジタルマーケティング・サイトやシステムの制作に苦戦しつつ、自社開発でMAツールのような機能を作りながら会員の応募を増やし事業を成長させた。 その後偶然、MAツールの運用を支援したところ、これまでの他の事業・領域よりも成果に貢献でき満足度も高かった。営業・マーケティング・システムというMAツール運用に必要な領域で全て10,000時間以上の経験を積み重ねていたことが上手く昇華された。そのため現在はMAツール運用に集中し、1社でも多く自動化施策で成果と効率を上げるための取組を行っている。
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