【なぜリードナーチャリングか?②】DM 25g、メール 0.3〜17g — マーケ施策別 CO2 排出量を試算してわかった「リードナーチャリングの 1/2〜1/10 効率」
はじめに
「展示会 1 回の出展、何 kg の CO2 を出しているかご存知でしょうか?」
私たちマーケティングアカデミアが、サステナビリティ文脈でクライアントとお話しするときに、最初にお伺いしている問いです。
正直、すぐに数字が出てくる方はほとんどいらっしゃいません。出展ブース費用や旅費は把握していても、CO2 排出量は計測されていない領域です。広告でも、訪問営業でも、テレアポでも事情は同じです。
本記事では、各マーケ施策の CO2 単価 をできるだけ一次ソースに当たりながら整理し、新規獲得型マーケと既存リード復活型のリードナーチャリングを 累積 CO2 で比較した弊社試算をお見せします。
最初にお断りしておきます。本記事の数字には「弊社按分試算(⚪)」が含まれます。 他のマーケ手法 1 タッチあたりの CO2 を「1 リード換算」「1 商談換算」に直す部分は、業界の公開データだけでは届かない領域があり、弊社で前提条件を置いて試算しています。前提条件は本文中ですべて開示しますので、貴社で「ここは違う」「ここは妥当」とご判断いただける形にしました。
検証ステータス凡例: 🟢 一次確認済 / 🟡 二次経由 / 🔴 一次未検証 / ⚪ 弊社見解・試算
1. なぜ「環境にやさしい」と言わないのか — 本記事の表現ルール
本題に入る前に、本記事の表現ルールを共有します。
絶対表現を使わない
「環境にやさしい」「エコ」「クリーン」「カーボンニュートラル」「climate neutral」 — これらの表現は、本記事では使いません。
理由は 2 つあります。
- 消費者庁グリーンウォッシュガイドライン が、根拠なき汎用環境訴求を問題視している
- EU ECGT 指令(Directive (EU) 2024/825・2026 年 9 月施行・🟢)が、"eco-friendly" "green" "climate neutral" 等の汎用環境訴求を、実証なしには使用禁止にする(後述記事 ③ で詳説)
代わりに、「相対比較」+「前提条件全公開」 で語ります。「他のマーケ手法と比べて、リードナーチャリングは概ね 1/2〜1/10 の CO2 排出に収まる試算です(前提条件公開)」 — このような表現を本記事の基本トーンとしています。
弊社サーバ電力もゼロではない
メールを送るには、サーバが必要です。MA ツールが動くデータセンターの電力もゼロではありません。私たちが扱う「ナーチャ 1 通」にも、わずかながら CO2 排出はあります。
これは隠しません。弊社のサーバ電力もゼロではないが、それを織り込んでも他手法に対する優位性は維持される と考えており、その理由が本記事の試算結果です。
2. マーケ施策別 CO2 単価表
単価リスト(1 タッチあたり)
メール 1 通
- 短文・テキスト: 約 0.3 g / 出典: Mike Berners-Lee「How Bad Are Bananas?」改訂版 2020 / 検証 🟢
- 長文・HTML・個別化(AI 生成込み): 約 4〜17 g / 出典: Berners-Lee 17g(10 分作成・3 分読了の長文)を上限、ナーチャリングは中間 4g 想定 / 検証 🟡
- 100 人一斉送信: 約 26 g / 出典: Berners-Lee / 検証 🟢
その他のタッチ
- テレアポ 1 回: 約 1 g / 出典: データセンター + 端末電力試算(Berners-Lee 系統) / 検証 🟡
- DM 1 通(国内手紙、海外参考値): 約 25 g / 出典: Royal Mail Group 平均 CO2/letter 2021-22 = 25 g / 検証 🟢
- オンライン商談 1 時間(2 名 PC + 配信): 約 100 g / 出典: Zoom Sustainability Report 系統推定 / 検証 🟡
- 訪問 1 回(往復 50 km・社用車): 約 7 kg / 出典: 環境省自動車排出原単位 約 140 g/km と仮定 × 50km / 検証 ⚪
- 展示会接触 1 リード分: 約 6 kg / 出典: UFI 公式は 1 リード換算公表なし、弊社で「1 出展 4t-CO2 ÷ 500 リード」と按分 / 検証 ⚪
単価の重要な性格
この表で押さえていただきたいのは以下の点です。
メールは「幅で表現」する
メール 1 通あたりの CO2 は、Mike Berners-Lee 氏の名著「How Bad Are Bananas? The Carbon Footprint of Everything」(初版 2010 / 改訂版 2020・🟢 書籍情報確認済)で、以下のように整理されています。
- 通常メール: 0.03 g
- 短文メール(PC 間): 0.3 g
- 長文メール(10 分作成・3 分読了): 17 g
- 100 人一斉送信: 26 g
リードナーチャリングで 1 通配信するメールは、HTML 形式で個別化されており、生成にも一定の作業時間が伴うため、本記事では 中間値 4 g 程度 を想定値として使います。原典は 4〜17 g の幅を持つので、単一値で見せると過剰な精度感を装うことになります。本シリーズでは原則 幅で表記 します。
DM は Royal Mail 公表値を使用
国内(日本郵便)の DM 1 通あたり LCA は、私たちが調べた範囲では公表されていませんでした。代替として、英国 Royal Mail Group が公開している「CO2 emissions per item delivered 2021-22 = 平均 25 g/letter」(🟢 一次確認済)を参考値として使っています。
過去のマーケ業界記事では「DM 50g」と表記されているケースがありましたが、Royal Mail の公表値ベースでは 25 g/通 が現在の妥当値です。本記事を含む弊社の訴求文では 25 g に統一しています。
展示会・訪問は弊社按分試算(⚪)
展示会出展 1 回の CO2 排出量は、UFI(国際見本市連盟)レベルでも 1 リード換算は公表されていません。弊社で「1 出展あたり約 4 t-CO2、獲得リード 500 件の場合、1 リード換算 約 6 kg-CO2」と按分しています。
訪問の CO2 排出量も、環境省の自動車排出原単位(小型乗用車 約 140 g/km と仮定)× 往復 50 km で 7 kg-CO2 と試算しています。原典 PDF からの g/km 値抽出は技術的に未確定のため、弊社試算(⚪) として明示します。
3. 累積 CO2 試算 — 4 シナリオ比較 ⚪
ここからは、上記の単価表をベースに、新規獲得 → 商談獲得まで と 既存リード復活 → 商談獲得まで の累積 CO2 を、シナリオ別に試算します。
⚪ 本試算はすべて弊社試算です。 単価そのものは出典のあるものをベースにしていますが、「商談化までに何タッチ重ねるか」「商談化率は何%か」といった部分は弊社の打率仮定です。
シナリオ A-1: 展示会起点 → 新規商談 1 件
展示会接触 6 kg/リード × 5 リード(商談化率 20%)
+ メール 7 通 × 4 g
+ 商談訪問 7 kg
+ 提案訪問 7 kg
≒ 約 50 kg-CO2 / 1 商談
シナリオ A-2: アウトバウンド → 新規商談 1 件
テレアポ 100 件 × 1 g(≒ 0.1 kg)
+ 訪問 5 回 × 7 kg = 35 kg(商談化率 20% で 1 商談)
+ 提案訪問 7 kg
+ メール 7 通 × 4 g
≒ 約 50 kg-CO2 / 1 商談
シナリオ A-3: DM → 新規商談 1 件
DM 1,000 通 × 25 g = 25 kg
+ 訪問 5 回 × 7 kg = 35 kg(DM 反応率 1% から 10 件、商談化 2 件)
- ただし試算では「2 件得られた商談のうち 1 件分」として案分
≒ 約 38 kg-CO2 / 1 商談
※ 旧試算では「DM 75 kg」と表記していましたが、Royal Mail 公表値ベースで再試算した結果、約 38 kg に下方修正されました。誠実さ優先で更新しています。
シナリオ B: 既存リード復活(マーケティングアカデミア想定) → 商談 1 件
B-1: 対面ベース
ナーチャメール 7 通 × 4 g(≒ 0.03 kg)
+ 商談訪問 7 kg
+ 提案訪問 7 kg
+ オンライン商談 100 g
≒ 約 21 kg-CO2 / 1 商談
B-2: 全オンラインベース
ナーチャメール 7 通 × 4 g(≒ 0.03 kg)
+ オンライン商談 1 時間 × 100 g
+ オンライン提案 1 時間 × 100 g
+ Slack/Email でのフォロー
≒ 約 1.3 kg-CO2 / 1 商談
4 シナリオ比較 ⚪
各シナリオの 1 商談あたり CO2 排出量(対面ベース / 全オンラインベース):
- A-1 展示会 → 新規商談: 約 50 kg / 約 30 kg
- A-2 アウトバウンド → 新規商談: 約 50 kg / 約 0.5 kg
- A-3 DM → 新規商談: 約 38 kg / 約 13 kg
- B 既存リード復活(マーケティングアカデミア想定): 約 21 kg / 約 1.3 kg
含意
- 対面ベース比較: 既存リード復活は新規獲得の 約 1/2 〜 1/2.5 の CO2 効率
- オンライン化込みで比較: 既存リード復活は 約 1/10 〜 1/23(ただし A-2 アウトバウンドのオンライン化が最も健闘するため、数値の幅が広い)
これらをまとめた弊社の表現は、以下のとおりです。
リードナーチャリングは、他のマーケ手法と比べて、CO2 排出量が概ね 1/2 〜 1/10 の水準に収まる試算です(弊社試算・前提条件公開)。
「1/30」と過大に表現していた時期もありましたが、Royal Mail 値の修正・A-2 のオンライン化健闘などを踏まえて、1/2 〜 1/10 の幅 が現時点で誠実な表現と判断しています。
4. 試算の限界 — 私たちが「言いすぎていない」ことの確認
本試算には、いくつかの限界があります。隠さずお伝えします。
① 単価そのものに不確実性がある
訪問 7 kg は環境省 g/km 仮定値、展示会 6 kg は弊社按分です。これらは原典の精度を保証できる数値ではありません。
② 「商談化率」は業種・企業規模で大きく変わる
シナリオ A-1 で「展示会から商談化率 20%」と仮定していますが、これは BtoB SaaS / 比較的成熟した業種を念頭にした水準です。製造業・建設業など長期検討プロセスの業種では、もっと低い商談化率になります。逆に高い場合もあるでしょう。
③ 弊社サーバ電力を完全には織り込めていない
ナーチャ運用に必要な MA ツール、CRM、メール配信プラットフォームのサーバ電力は、上記試算には部分的にしか反映されていません。それを完全に積み増しても、対面ベースで A-1 の「50 kg」を超えることは構造的に難しいですが、「リードナーチャリングは CO2 ゼロ」とは決して言えない ことを強調しておきます。
④ Scope3 排出量(広告サプライチェーン)は別の世界
本試算は B2B のマーケ施策を比較していますが、もうひとつの巨大な領域として 広告サプライチェーン があります。Scope3(米国発・プログラマティック広告 CO2 計測 SaaS)によれば、「単一デジタル広告キャンペーン = 約 70 t-CO2」というオーダー(🔴 一次出典未追跡)の数値も流通しています。広告中心のマーケ予算を組んでいる企業ほど、リードナーチャリングへの再配分の効果は大きい、と弊社では考えています。
5. 「CO2 効率」だけがリードナーチャリングの価値ではない
CO2 試算は、本シリーズで扱う 4 視点のうちの 1 つです。リードナーチャリングの価値は、業績相関(前回記事 ①)、関係性、専業ポジション(最終回記事 ④)と合わせて評価いただくものだと考えています。
ただし、ここで CO2 をあえて取り上げているのは、
- 欧州の規制動向(次回 ③ 記事で扱う EU ECGT 指令、WFA Planet Pledge)
- 日本 B2B 製造・建設業の調達基準サステナ要請 96.2%(次回 ③ 記事)
を踏まえると、今後 3〜5 年スパンで「マーケ取引先選定」に CO2 観点が入ってくる蓋然性が高い と弊社が見ているためです。その文脈で、ハウスリード活用が CO2 観点でも筋がよい、ということを Fact ベースで提示しておきたい、というのが本記事の動機です。
まとめ
- マーケ施策の CO2 単価は、メール 0.3〜17 g、DM 25 g、テレアポ 1 g、展示会 6 kg/リード、訪問 7 kg/回 が試算値(🟢🟡⚪ 混在)
- 「メール 2 g」「DM 50 g」のような単一値は精度感を装うため、本シリーズでは幅で表現
- 新規獲得 vs 既存リード復活の累積 CO2 試算では、対面ベースで約 1/2〜1/2.5、全オンラインベースで約 1/10〜1/23 の差(⚪ 弊社試算・前提全公開)
- 誠実な表現は「概ね 1/2〜1/10 の水準に収まる試算(弊社試算・前提条件公開)」
- 「環境にやさしい」「カーボンニュートラル」等の絶対表現は使わない
- 試算の限界(単価不確実性、商談化率の業種差、サーバ電力、Scope3)も併記
数字の確からしさを示しながら、CO2 の文脈で見ると 既存リードを温め直す というマーケ手法に独自の価値があることを示せた、と考えています。
次回 ③ では、この CO2 文脈が 欧州規制と日本 B2B の調達基準 にどう繋がっているか、Fact ベースで整理します。
シリーズ「なぜリードナーチャリングか?」 他の記事
- 【序章】業績相関 × 脱炭素 × 関係性 × 専業ポジション — 4 つの視点
- 【①】業績相関 — Forrester +50%・Annuitas +47% の本当の読み方
- 【②】CO2 ベンチマーク試算 — DM 25g、メール 0.3〜17g から見える「他のマーケ手法と比べて 1/2〜1/10」の意味(本記事)
- 【③】2026 年 9 月 EU ECGT 指令施行・WFA Planet Pledge と日本 B2B の調達基準サステナ化
- 【④最終回】「リードナーチャリング運用専業」という、国内で数少ないポジション
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脚注・出典
[royalmail]: Royal Mail Group plc, "CO₂ emissions per item delivered 2021-2022", 平均約 25g/letter (2021-22 年度)。https://www.royalmail.com/sustainability/environment/net-zero および https://www.statista.com/statistics/1336132/carbon-dioxide-emissions-per-item-delivered-of-royal-mail-group-plc/。検証ステータス: 🟢 一次確認済(Statista 経由公開数値)。注: 日本郵便の DM 1 通あたり LCA は公表されていないため、海外参考値を代用。
[bernerslee]: Mike Berners-Lee, "How Bad Are Bananas? The Carbon Footprint of Everything", Profile Books Ltd. 初版 2010 年、改訂版 2020 年。メール 1 通あたり CO2 = 通常 0.03g / 短文(PC 間)0.3g / 長文(10 分作成・3 分読了)17g / 100 人一斉送信 26g。https://profilebooks.com/work/how-bad-are-bananas/。検証ステータス: 🟢 書籍情報確認済(Mailjet ブログ経由で具体値確認)。
[mailjet]: Mailjet, "Email's Carbon Footprint: What Is It & How To Reduce It", 2024 年 9 月 3 日記事。https://www.mailjet.com/blog/email-best-practices/email-carbon-footprint/. メール 1 通あたり CO2 数値は Berners-Lee 書籍を参照。検証ステータス: 🟢 一次確認済。
[scope3]: Scope3. https://scope3.com/. プログラマティック広告 CO2 計測 SaaS。「単一デジタル広告キャンペーン = 約 70 トン CO2」「インターネット起因 GHG = 世界全体の約 4%」は二次引用ソース経由。検証ステータス: 🔴 数値の一次出典未追跡。
[statista]: Statista, "Sustainability in advertising and marketing in Europe - statistics & facts", 2025 年 12 月更新。https://www.statista.com/topics/12484/sustainability-in-advertising-and-marketing-in-europe/。検証ステータス: 🟡 詳細メソドロジは Statista 有料登録要、未確認。
[ecgt]: Directive (EU) 2024/825 of the European Parliament and of the Council on Empowering Consumers for the Green Transition. 国内法制化期限 2026 年 3 月 27 日、施行日 2026 年 9 月 27 日。Carbon Trust 公式解説 https://www.carbontrust.com/news-and-insights/insights/ecgt-directive-explained-what-organisations-who-sell-in-europe-should-know-and-do。検証ステータス: 🟢 公式解説で確認。
マーケティングアカデミア富田
マーケティングアカデミア富田
株式会社マーケティングアカデミア 代表取締役 20代はリクルートで人材系の法人営業。飛び込みやテレアポをしたくない、でも成果は出さないと行けない、というジレンマの中、気づけばメールマーケティング・カスタマーサクセスのような動きを自然身に着けていた。狙い通り、「自分は案件や引き合いが多くてテレアポの時間が作れないし、優先すべきは今ある案件の受注」という建前を作りつつ、表彰を多数獲得。 30歳の誕生月にリクルートを卒業し、ベンチャーで教育系求人サイトの事業責任者に。はじめて経験するデジタルマーケティング・サイトやシステムの制作に苦戦しつつ、自社開発でMAツールのような機能を作りながら会員の応募を増やし事業を成長させた。 その後偶然、MAツールの運用を支援したところ、これまでの他の事業・領域よりも成果に貢献でき満足度も高かった。営業・マーケティング・システムというMAツール運用に必要な領域で全て10,000時間以上の経験を積み重ねていたことが上手く昇華された。そのため現在はMAツール運用に集中し、1社でも多く自動化施策で成果と効率を上げるための取組を行っている。
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